参加予定者のページ更新しました。

新たにオーストリア、ベルギー、イスラエル、オランダからの参加表明がありました。

ドイツからも新たに2名参加です。

―問題篇より続きます―

 

 

ヒントに書いたとおり、まず1.Bb7および1.Ba6とすればどうなるかを検討してみる。

1.Bb7は次に2.Be4≠とメイトにする狙いを持っている。このように、放置すればこんな順で詰ますよという、詰将棋で言えば「詰めろ」に相当する狙い筋のことを、専門用語で「スレット」(threat) と呼ぶ。これに対して黒は1…e1=Qと受ける。白にはこれ以上手がなく、失敗。

それでは、1.Ba6はどうだろうか。これは次に2.Bd3≠というスレットを持っている。それを受ける手は1…e1=Sだ。

ここで、黒の1枚のポーンが1…e1=Qおよび1…e1=Sと、クィーンおよびナイトに成る順が現れた。このような黒の受けを「ホルストのテーマ」(Holst theme) と言う。ホルストのテーマは、ドイツ論理派が好んで用いたもので、とりわけオーストリアの作家Alois Johandl が得意にしたことでも知られる。

さて、1.Ba6に対して1…e1=Sと書いたが、実はそれだと2.Bb7と戻られて、3.Be5≠のスレットを狙われると、今度は本当に受けがない。そこで、黒にはもう少しひねった受けがある。1.Ba6に1…Sb5!と捨てるのがそれだ。2.Bxb5と取るよりなく、そこで2…e1=S!とすれば、白は3.Bc6(4.Be4≠)と指すことになる。このとき、白のビショップがb6のルークの利きを遮断してしまったので、黒は3…Kxe6!と逃げ出せる。以下、4.Be4+ Kf7となって、もう詰みはない。

このように、ある駒がXの地点に来る順があるとき、相手がその駒をXよりも劣った地点Yに誘い出すような手筋のことを、通称「ローマン」(Roman) と呼ぶ。これは普通、黒の駒をおびきだすときの白の手筋について使われるが、逆に白の駒をおびきだすときの黒の手筋はWhite Romanと呼ばれる。この作品の場合なら、X=b7, Y=c6となっているWhite Romanである。

最初に戻って、1.Ba6?といきなり指すのは1…Sb5! (White Roman)と2…e1=S (Holst) の組み合わせで逃れることがわかった。そこで白は、そうした逃れ順に対抗する、伏線を前もってかけておく。これが専門用語で「フォアプラン」(foreplan) と呼ばれるものである。それに対して、先ほどの1.Ba6?以下の順は、「メインプラン」(mainplan) と呼ばれる。すなわち、メインプランが成立するように前もってフォアプランを仕掛けておくのである。この発想は、詰将棋における伏線と基本的に同じだ。

正しいキーは1.g3!!。これが妙手。一見すると何が狙いかわからないかもしれないが、実は放置すると2.Sxg7+ Kg5 3.Sh3+ Kh6 4.Sf5≠というスレットが付いている。このスレットは、たとえ1…e1=Qと来ても関係なく成立する。

黒には受けがなさそうに見える(1…h4とh5の遁路を作れば2.g4≠)が、1…Rf7が唯一の受け。これは先ほどのスレットで、最後の4.Sf5+のときに4…Rxf5!と取り返す手を残したものである。

この1手のやりとりで、黒のルークがf7に移動したわけだ。この伏線(フォアプラン)を行なってから、すでに調べた本手順(メインプラン)に入ればどうなるか。

2.Ba6 Sb5 3.Bxb5 e1=S 4.Bc6 Kxe6 と進めば、もうおわかりだろう。f7の地点が黒のルークで塞がっている(これをセルフブロックself-blockと呼ぶ)から、5.Be4≠でチェックメイト! これが伏線を掛けた効果だったわけだ。

解説が長くなったので、もう一度手順をまとめてみよう。

 

(mainplan) 1.Ba6? Sb5! 2.Bxb5 e1=S 3.Bc6 Kxe6 4.Be4+ Kf7!

(foreplan) 1.g3!! (2.Sxg7+ Kg5 3.Sh3+ Kh6 4.Sf5≠) 1…Rf7

2.Ba6! Sb5 3.Bxb5 e1=S 4.Bc6 (5.Be4≠) Kxe6 5.Be4#

 

ドイツ論理派独特の濃厚な論理性を、比較的にスマートな形で描き出した佳作。伏線の掛け方が、1.g3!!という静かな手であるのも好ましい。

 

 

a) 1.Bf6! Be1! 2.Se5 Kd4 3.Rh5 Ke3 4.Bg5+ Kf2 5.Kh4 Kg2≠

b) 1.Bh2! Bd8! 2.Kg3 Kd6 3.Rh3 Ke7 4.Kh4 Kf6 5.Bg3 Kg6≠


白のビショップ1枚でメイト形を作るときの常套手段は、ビショップのラインに白のキングをはさみ、最後に開き王手で詰めるという筋である。この開き王手ができる形をバッテリー(battery)と呼び、とりわけキングをはさんでいる形をロイヤル・バッテリー (royal battery) と言う。

ここでは、そのロイヤル・バッテリーを上下2つでやろうというのが狙い。普通だと、この2つの解にはそれ以上の統一性を入れにくいところだが、ここでは黒がまず初手でビショップを移動して、そのビショップのラインを2手目に自ら遮る (2.Se5および2.Kg3) ことにより、白キングの進路を保証するというところで統一性を図っている点に注目してほしい。

記憶に残る作品。

(若島正)

 

ハンス・ペーター=レーム(Hans Peter Rehm)

Hans Peter Rehm

 

1942年生まれ、ドイツのプロブレム作家。1984年にプロブレム創作でGMの称号を獲得。カールスルーエ工業大学で数学(専門は数論)の教授を務めていたが、定年退職した。作品集にHans + Peter + Rehm = Schach(1994年)がある。作風はいわゆる「ドイツ論理派」の流れを汲むもので、オーソドックス、ヘルプメイト、セルフメイト、フェアリーのジャンルにおいて論理性の濃い長手数の作品を得意とする(注:チェス・プロブレムでは、ふつう長手数とは4手以上を指す)。

 

 

 

 

 

 

 

ここでは、オーソドックスとヘルプメイトから1局ずつ紹介する。

 

 

 

 

問題設定は、5手でメイト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白が手をこまねいていると黒には1…e1=Qという手があるので、ゆっくりしてはいられない。そこで、1.Bb7あるいは1.Ba6と指せばどのようなことになるか、考えてみてほしい。そうすると作者の構想がぼんやりと見えてくるだろう。

 

 

 

 

 

問題設定は、5手でヘルプメイト。ただし、この図をa)として、黒のナイトの位置をc4からc2に移した図b)も同じ条件で解くこと。

2つの図が問題になる、いわゆる「ツイン」(twin) の出題形式。ツインの場合には、1つが解ければもう1つはすぐに解けることが多い。

 

 

 

 

 

 

 

白にはビショップしかないときにメイト形を作る、頻出の定跡形があることを知っていれば、比較的早く攻略できるかもしれない。

(若島正)

 

ー問題篇から続きますー

Caillaud Retro

 

 

右上の形をほぐすには、黒Pg7-g6(+)を戻し、白Kh5-h6を戻さなければならない。そのあいだに、黒は元々のBf8を原位置f8に戻すことはできない(戻そうと思うと、g7を通過しなくてはならないため)。

すなわち、図の黒Ba3は、成駒である。

左下の形をほぐすには、白Pd2xc3を戻し、Rb3を移動してから、Pb3-b4を戻すことになる。従って、黒がポーンを成った地点は、Ba3が黒マスにいるので、g1に確定する(すでに白Pd2が戻っているため、c1には入れないし、e1で成るとそこからビショップを抜くことができない)。

黒はすでにh筋のポーンで1度白の駒を取っているし、図面で白の取られた駒はQRBBSの5枚なので、g1に成ったポーンはたかだか4枚しか駒を取れない。従って、そのポーンは元々c7にいたものである(その場合、g1に至るまでに4回駒を取っている)。黒がh筋のポーンで取ったのは、白がPd2xc3を戻す前にc1に戻しておかねばならない黒マスのビショップである(このビショップを戻しておかないと、元々のBc1はさらにその前に取られたことになり、黒の駒取りが6回になってしまい矛盾)。

黒Pc7がg1に到達する軌跡を考える。その途中の駒取りには、白マスのビショップを取った手が含まれているはず。従って、Pc7xd6xe5xf4xg3-g2-g1=Bという軌跡は、駒取りがすべて黒マスになっているので不可能。すなわち、黒のポーンは必ずf3xg2-g1=Bというコースを通ったはず。

従って、図でf3にいる白のポーンは、元々はg筋のポーンではなく、e筋から来たことになる(そうでないと、先ほどの黒のポーンの軌跡に抵触する)。

以上から、白のPg2は現在b7にいることになる。その軌跡は、Pg2xf3xe4xd5xc6xb7。これが求める答えである。

Caillaudのレトロとしては、ごくごく易しい部類に属するが、シンプルなアイデアをこれだけ軽い形であっさり仕上げられる技術に見とれてしまう。

 

 

 

 

1.Sf7 Qe3+ 2.Kf6 dxe8=S≠

1.Re7 Qd4+ 2.Ke6 d8=S≠
1.Re6 Qb5+ 2.Kd6 dxc8=S≠
1枚のポーンによる、ナイト成りまでの詰み3通り。軽い作りだが綺麗、というのがCaillaudの持ち味の一つ。詰将棋マニアには最も理解しやすい芸術的感性だと言えるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.Sxe3!! Ke5 2.Qf5+ Kd4 3.Qe6! fxe6 4.Sc4 e5 5.f7 e4 6.f8=Q e3 7.Qf2!! exf2≠
ヒントにも書いたとおり、セット・プレイには1手のメイトがあるが、白が初手を指さざるをえないためにそのメイトが消えてしまい、それを再現するのにかなりの手数がかかってしまう、という構成のセルフメイトを、専門用語で「蜃気楼」(Fata Morgana)と呼ぶ。

この作品は、その「蜃気楼」の好例と言えそうな佳作であり、なんといっても初手の1.Sxe3!!がメイトの可能性をぶっ壊してしまうように見えるだけに衝撃的だ。そして、e6に捨てたクィーンが成駒として再生するという、「フェニックスのテーマ」(Phenix theme)を経て、7.Qf2!!と戻れば、信じられないことに初形に復活して、目的が達成される。

唖然とするアイデア、そしてそれを苦もなくやってのける高度な作図技術に、ひたすら圧倒される思いがする一局。

(若島正)

ミシェル・カイヨー (Michel Caillaud)

 

Michel Caillaud
1957年生まれ(現在54歳)、フランスのプロブレム作家・解答者。36歳でプロブレム創作の最年少GMになるという記録を樹立。おそらくは現役で世界最高のプロブレム作家と呼んでも過言ではない。スタディ以外のあらゆるジャンルをこなす万能作家だが、特に有名なのはProof Gameを中心とした「レトロ」の分野である。

 

 

 

 

 

 

 

 

(©Vito Rallo)

 

ここでは、レトロ、ヘルプメイト、セルフメイトのジャンルからそれぞれ1局ずつ、比較的軽いものを紹介する。まず一度、自分で取り組んでみてほしい。

Caillaud Retro

 

 

 

問題設定は、g2にいた白のポーンがどういう軌跡をたどったかを問うもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロジックはシンプルでエレガントである。

 

 

 

 

 

 

 

 

問題設定は、2手でヘルプメイト、解は3つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、解が3つあるということから、あなたは何を想像しますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

問題設定は、7手でセルフメイト。セルフメイトとは、白から指しはじめ、白のキングがチェックメイトになるような手順を求めるもの。ただし、黒は抵抗する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「S#7」に付いている星印は、黒から指しはじめる、いわゆる「セット・プレイ」(set play)もおまけに付いていることを意味する。この場合だと、もし黒の手番なら、1…exf2≠でいきなりチェックメイト(黒にはこの手しか指せる手がないことに注意)。だったら、白番で初手に白が手待ちしてやれば、今の順で1手でセルフメイトできるんじゃないか……と思いませんか。実は、それがうまく行かない。たとえば1.Ba5?なら1…Kc5!と逃げ道ができてしまう。いちばん良さそうな1.Rd2?でも、1…exf2+のときに2.Rxf2と取り返す手ができてしまい、失敗する。

さあそれでは、どんな手段が残っているのか?

(若島正)

 

チェス・プロブレムの揺籃期で、現在のチェス・プロブレムに比較的近いと思われる作品は、13世紀に作られたとされる次のようなものです。

 

 

正解は1.Rhg7!(h7にいるRをg7に動かす、という意味)です。

この手は、放っておくと次にメイトにするよ、という手ではありません。しかし、黒は手番が渡されたので、何か指さないといけません。

キングを動かす手は、

1…Kc8 2.Ra8≠

1…Ke8 2.Rg8≠

そしてナイトを動かす手は

1…Sb7 2.Ra8≠

1…Sf7 2.Rg8≠

です。この2つめの変化に注目してください。たとえば白が初手に1.Kc2?とでも指して手待ちをすれば、1…Sf7!とされて詰まなくなるのです(2.Rh8+だとSxh8!と取られてしまいます)。

ナイトを他の場所に移動しても、白の次の手で詰むことは各自ご確認ください。

 

この問題では、明らかに第1回で紹介した最古のプロブレムとは違って、「白勝ち」という終盤問題ではありません。しかも、「2手でメイトにする」という制約によって初手の正解(キーと呼びます)が1つに定まっており、さらに黒はチェス用語で言うところのzugzwang(ツークツワンク、すなわちそのままならメイトはないが、手番が与えられているために不利な手を指すことを強制され、そのせいでチェックメイトにされるという状況)になっている点など、現代にも通用する要素を持っています。

また、この問題のキーは、チェックをかける手ではないことに注意しておきましょう。「チェックをかけつづけなければ仕方がない」という作り方は、可能な手の数を極端にせばめてしまうため、チェス・プロブレムが発展する可能性の足かせになっていました。チェックをかける手よりも、むしろチェックをかけない静かな手の方が、手として優れているという価値観が確立したのは、実は19世紀というずっと後になってからのことなのです。

チェス・プロブレムは詰将棋と比べて、はるかに手数が短く設定されています。たとえばMate in 2なら、詰将棋式に換算するとわずか3手詰なのですが、それでは作品の奥行きという点で詰将棋の3手詰にほぼ等しいのかと言えば、まったくそうではありません。それはよくある誤解でしかありません。詰将棋で言えば15手詰くらいの奥行き、というのがわたしの実感です。どうしてそうなるのかと言えば、「チェック(=王手)をかけなくていい」というこの自由度のために、解答者が考えなくてはならない可能な手の数が飛躍的に増大しているからです。

この度第55回チェスプロブレム世界大会&第36回チェスプロブレム世界解答選手権実行委員会では、チェスプロブレム世界大会を日本で開催する事にともない、寄付金をお願いすることになりました。

この世界大会は、チェスプロブレムの愛好家が文字どおり世界中から毎年200人ほど集まってチェスプロブレムを楽しむ大規模なもので、会場費などの見積もりでは、5,000,000円ほどの総経費になる見込みです。多少の自己資金、各種団体からの援助金、そして参加者から徴収することになる参加費を合わせても、2,000,000円ほど不足することになり、その捻出が必要になります。参加費を値上げすることは、参加者が支払う高い航空運賃を考えると、できるかぎり避けたいと思っています。そこで、皆様にご寄付をお願いするような次第です。

寄付金は一口10,000円でございます。もちろん、何口お送りいただいても結構です。本趣旨に対し何分のご配慮を賜り宜しくご寄付いただければ幸いと存じます。世界中から多くの参加者が日本に来ていただけるように、是非ご協力下さい。

なお、ご寄付いただきました方には、大会終了時に製作配布される冊子にご芳名を記させていただきますとともに、その冊子を1部お送りさせていただきます。

本趣旨にご賛同いただけます場合は、下記のゆうちょ銀行口座宛、振込にてご送金下さい。

○名義:第55回チェスプロブレム世界大会&第36回チェスプロブレム世界解答選手権実行委員会 ○記号:14340 ○口座番号:35260151

他行からの振込の場合の口座番号

○店名:四三八 ○店番:438 ○普通預金 ○口座番号:3526015

 

第55回チェスプロブレム世界大会実行委員長 若島正

世界最古のチェス・プロブレムは、紀元840年頃の、次の作品だとされています。

ここでMate in 3とは、「3手で黒のキングをメイトにせよ」という指定です。これは、さらにくわしく言えば、「白から指し始めて、白の3手目で黒のキングをメイトにせよ」ということで、詰将棋式に数えれば5手詰に等しくなります。ただし、詰将棋のように、「必ず王手をかける」という制約はありません。

問題図の上に付いている情報は、作者名、そして発表場所と発表年を表しています。

 

figure1

 

正解:1.Sh5+ Rxh5 2.Rxg6+ Kxg6 3.Re6≠

(なお、チェス・プロブレムでは、ナイトをNではなくSと表記するのが習わしになっています。さらに、通例では、チェックは+、チェックメイトは≠で表記します。)

 

これはフィレンツェの国立図書館が所蔵している写本に見られる図です。

ただ、ここで注意していただきたいのは、当時にはまだ現在のようなチェス・プロブレムにおけるオーソドックス(すなわち、何手でメイトにせよという形式)がありませんでした。ですから、問題そのものは「白先で白勝ちにせよ」という実戦の終盤問題、つまりエンドゲームと等しくなっています。

この図だと、白のキングにはほぼ将棋で言うところの必至がかかっています。必然、白勝ちにするためにはチェックをかけつづけて、最後にはチェックメイトにするしかありません。つまり、チェス・プロブレムには最初から、「白は必ずチェックをかけなくてはいけない」という、詰将棋的な王手連続の規則というものはありませんでした。この問題のように、結果としてチェックの連続になっているのは、チェックをかけないととたんに可能性が増大して、作者の読みの限界からはみだしてしまうからです。

このような、言ってみれば詰将棋に近い路線は、この最初の作品が誕生してから、なんと約1000年も続くことになります。そして、そのあいだ、チェス・プロブレムには進歩らしい進歩が見られませんでした。

ブログ設置しました。
チェスプロブレム世界大会準備委員会から発信していきます。
ご期待ください。